仙台地方裁判所 平成6年(ヲ)75号 決定 1994年4月06日
債権者
甲野春子
右代理人弁護士
村田知彦
債務者
甲野太郎
第三債務者
仙台市
右代表者交通事業管理者
青木薫
主文
一 平成六年(ヨ)第五八号債権仮差押申立事件について、当裁判所が平成六年四月五日にした債権仮差押決定の仮差押債権の範囲が別紙一記載のとおりであるのを別紙二記載のとおりに変更し、右仮差押決定記載の請求債権の執行を保全するため、債務者の第三債務者に対する別紙二記載の債権のうち、別紙一記載の範囲を超える部分につき、さらに仮に差し押さえる。
二 第三債務者は、債務者に対し、右第一項による仮差押えに係る債務の支払をしてはならない。
理由
第一 申立ての趣旨
主文と同旨
第二 当裁判所の判断
一 一件記録(平成六年(ヨ)第五八号事件の記録も含む。)によれば、以下の事実が認められる。
1 債権者は、債務者の妻であり、債務者に対し、平成五年二月一二日、離婚訴訟を提起し、それに付帯して三五〇〇万円の財産分与及び離婚に伴う慰謝料五〇〇万円の支払を求めている(平成五年(タ)第八号離婚等請求事件、以下「本案訴訟」という。)。本案訴訟は弁論が既に終結されており、判決言渡期日は平成六年五月二五日に指定されている。
2 債務者は、第三債務者に勤務する職員であり、平成六年三月末日限り第三債務者を退職する旨の退職届を提出している。債務者は、現在自宅を出て、別のマンションに居住している。
3 債務者の資産としては、自宅の土地及び建物があるが、それには安信信用保証株式会社を根抵当権者とし、極度額を二二〇〇万円とする根抵当権が設定されている。これは、債務者が安田信託銀行株式会社から安信信用保証株式会社の保証の下に借り入れた金員についての安信信用保証株式会社の債務者に対する求償債権を担保する目的で設定されたものであるが、右借入金の平成五年一〇月一四日段階の額は二〇五四万五〇〇四円である。右借入金の使途については、債務者は、生活費、交際費、競馬、宝くじの購入費、遊興費にあてたと供述しているが、その詳細は明らかではない。また、そのうち債務者の手元に残っているものの有無及びその額についても、債務者は、本案訴訟の係属前の離婚等調停事件において、平成四年四月二〇日、家庭裁判所調査官から面接を受けた際には、平成三年七月に借入した一〇〇〇万円を銀行に預金して少しずつ使っており、大分残っているものの、その額は明らかにできない旨供述していたが、本件債権仮差押申立事件の審尋の際には、これを全て費消している旨供述しており、正確な状況は明らかではない。
債務者は、右借入金債務の返済方法については、自宅の土地及び建物を処分することを考えており、それが不可能な場合は、根抵当権の実行によることもやむを得ないと考えている。
4 債務者が平成六年三月末日で第三債務者を退職した場合の退職金の総支給額は三二九八万四四六三円であり、法定控除額一五四万五四〇〇円控除後の残額は三一四三万九〇六三円であるので、その四分の一は七八五万九七六五円になる。債務者には、職員共済組合貸付金、職員互助会貸付金の各退職時未償還残額があるので、退職手当支給予定額は二五二四万二四六七円である。
5 債務者の第三債務者を退職後の再就職先は現在のところ見つかっていないが、再就職が不可能な状況ではない。
債務者は、現在五六歳であり、第三債務者共済組合からの年金の支給年齢は六〇歳からであるが、繰り上げて受給することも可能である(もっとも、繰り上げて受給した場合は、六〇歳と繰り上げて受給する場合の支給開始年齢の差一年につき四パーセント金額が減額される。)。
6 債権者は、平成三年八月三〇日、1の慰謝料請求権五〇〇万円を請求債権として、自宅の土地及び建物に対する仮差押決定(平成三年(ヨ)第三八八号不動産仮差押申立事件)を得、同月三一日、これに基づく仮差押登記が経由された。次に、債権者は、平成四年八月一一日、1の財産分与請求権のうち一五〇〇万円を請求債権として、右自宅の土地及び建物に対する仮差押決定(平成四年(ヨ)第三六一号不動産仮差押申立事件)を得、同月一二日、これに基づく仮差押登記が経由された。
また、債権者は、平成六年一月一三日、1の財産分与請求権のうち七五〇万円を請求債権として、債務者の俸給等から法定控除額を控除した残額の四分の一(ただし、右残額が月額二八万円を超えるときは、その残額から二一万円を控除した全額)及び退職金から法定控除額を控除した残額の四分の一につき、仮差押決定(平成六年(ヨ)第五号債権仮差押申立事件)を得、同月一七日、右仮差押決定が第三債務者に送達された。右仮差押決定により差し押さえられた俸給等の額は、第三債務者の陳述催告に対する回答書、供託書及び事情届によれば合計五四万三一四〇円になる(事情届の供託合計額には誤りがある。)。
さらに、債権者は、別紙請求債権目録記載の債権(1の財産分与請求権のうち一二五〇万円)を請求債権として、平成六年四月五日、退職金から法定控除額を控除した残額の四分の一につき、仮差押決定を得た。
債権者は、右請求権の限度で、退職金債権全額につき仮差押範囲の拡張を求め、本件申立てをした。
債権者が本案訴訟を提起したり、前記仮差押命令を申し立てたのは、本案訴訟の判決に基づき給付を受けた金員を3の借入金債務の弁済に充て、安信信用保証株式会社から根抵当権の移転を受けることで自宅の土地及び建物を確保することを目的としており、債権者代理人と連名で本案訴訟の判決に基づき給付を受けた金員を3の借入金債務の返済に充てる旨の上申書を提出しており、実際に、安田信託銀行株式会社に対し、債権者代理人と共に、本案訴訟の判決に基づき金員の給付を受け、それを債権者が右借入金債務につき弁済提供した場合に、これを受領し、安信信用保証株式会社から右根抵当権の移転が受けられるようにして欲しい旨申し入れ、安田信託銀行株式会社から右申入れを検討するとの回答を得ている。
二 そこで、右認定事実に基づき、本件申立てについて判断する。
本件申立てを認容しても、債務者に第三債務者から現実に支給される退職金の額は五七八万五六〇七円(二五二四万二四六七円―(七五〇万円―五四万三一四〇円)―一二五〇万円)となると見込まれること、債務者は第三債務者共済組合から年金を繰り上げて受給することも可能であること、債務者には再就職の可能性もあることを考えると、債務者の最低限度の生活を維持することは可能であり、本件請求債権が離婚に伴う財産分与請求権であり、債権者と債務者の実質的共有財産である自宅の土地及び建物と退職金債権の分与を求めるのがその趣旨であることからすれば、本件申立てを認めるのが相当であるということができる。
もっとも、右五七八万五六〇七円では債務者の前記一3で認定した借入金の額二〇五四万五〇〇四円に満たないことが問題となるが、債権者は本案訴訟の判決に基づき給付を受けた金員を前記一3で認定した借入金債務の返済に充てる予定であるのに対し、債務者は退職金で右借入金債務を返済せずに、最終的には根抵当権の実行に委ねる可能性が強いことを考え合わせれば、右の点が本件申立てを認容する妨げとはならないというべきである。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判官中村也寸志)
(別紙一)仮差押債権目録
一、金一、二五〇万円
但し、債務者(仙台市交通局総務部勤務)が第三債務者から支給される退職金から所得税、住民税を控除した残額の四分の一につき頭書金額に満つるまで。
(但し、仙台地方裁判所平成六年(ヨ)第五号債権仮差押事件の仮差押決定において、仮差押さえられている部分以外のもの)
(別紙二)仮差押債権目録
一、金一、二五〇万円
但し、債務者(仙台市交通局総務部勤務)が第三債務者から支給される退職金から所得税、住民税を控除した残額につき頭書金額に満つるまで。
(但し、仙台地方裁判所平成六年(ヨ)第五号債権仮差押事件の仮差押決定において、仮差押さえられている部分以外のもの)
請求債権目録
一、金一、二五〇万円
但し、債権者が債務者に対して有する離婚に伴う財産分与請求権金三、五〇〇万円の内金。